自作のゲル撮影装置でどれくらいきれいに撮影ができるのか検証してみた

はじめに

諸事情によりトランスイルミネーター、ゲル撮影装置が無くなりました。買えばいいのですが(ミニゲル用なら10万円くらいから手に入ります)、一年くらい待てば近くに使用可能なトランスイルミネーター、ゲル撮影装置が来ることがわかっているので、なんとかやり過ごすことにしました。

幸いゲル切り出し用のLEDはあるので、撮影装置を自作でなんとかしてみることにしました。自作のゲル撮影装置の基本的なところは京都産業大の本橋研究室のHPに載っている情報を参考にしています。

 

早速作ります

ダイソーでもゼリアでもワイヤーネットが売っているのでそれを買ってきて、カメラ部(スマホ)を乗せる骨組みにしました。立てるワイヤネット×2、立てる足の部品×2、横に渡すワイヤーネット×1、横渡し用のフック×2の7点です(横渡し用フックは結束バンドで固定すればいらないです)。組み立てるとこんな感じになります。

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上に乗せているのは発掘してきた顕微鏡の部品のアクリル板です。オレンジ色のゴーグルと同様に短波長側の励起光をカットしてDNAのバンドを見えるようにします。多分市販の2mm厚オレンジのアクリル板でも見えると思うのですが、試していません。この上にスマホをおいてカメラとします。この部分のフィルターはスマホのレンズが入ればいいくらいの大きさなので、それほど値段がはらずに手に入るカメラのレンズ用フィルターでもいいと思います(富士フィルム フィルターSC-46など波長に合わせて)。

もちろんこれでは蛍光灯の明かりで見にくいので遮光します。

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ダンボールですね。一気に手作り感が上がります。もう少し暗室感を出すなら、もう一枚ワイヤーネットを天井に張って、暗幕をかけるといいかと思います。

実際にアガロースゲルの撮影を行いました。EtBr先染めゲルに流しています。アガロースゲルを下にセットして、先程のオレンジのアクリル板の上にスマホをおいて位置、ピントを合わせてLEDをONにすると

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見えます。というわけで、光源があれば外側は1000円程度で作成可能でした。

印刷もしたい

スマホで撮れば後はPCに写真を移して保存でいいのですが、個人的にはプロトコールに写真を貼りたいです。スマホで撮影した後にPCに移す、印刷、切る、貼るが億劫なので、スマホで撮影→シール台紙に印刷がすぐ出来ないか試してみました。

スマホからbluetoothで写真送って印刷できる小型のフォトプリンターが色々と出ているので、それを買えば解決できそうなのですが今回はPhomemo M02Sという白黒、感熱型のフォトプリンターを試してみました。値段が安い(M02Sで1万円弱、前のモデルだと5000円程度)のと、M02Sは3サイズくらい用紙幅が選べるので、将来的にテプラ代わりで使用できるのではないかという算段での導入です。

結果から先に書きますと、それほど楽には印刷できない感じです。

専用アプリをダウンロードして本体とbluetoothでつなげて、先程のゲルの写真を専用アプリでそのまま印刷してみたのですが…

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黒いです…バンドが見えません…

困ったのですが、色々とやってみたところ

  • 写真を白黒にする
  • 白黒反転をする
  • 明るさコントラストをざっとでいいので調整する

の3点を行ったところ、なんとか記録として残すくらいの写真が取れました。

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もう少し改善する余地はありそうですが、一応、撮影-印刷の装置は出来上がりました。

 光源についてちょっとだけ

今回はラボにあったLEDを使いましたが、先程の本橋先生のHPではミドリグリーンなどの青緑試薬の励起にシアンLEDのライトを使っているようです。4000円位で手に入るみたいです。単3電池3本 5mmLED 12灯なので、もう少し強さが欲しくなるかもしれないですが、これ以上になるとパワーLED買ってきての電子工作になるので素人が手を出しにくいところです。後、励起フィルターですが、こちらが少々値が張りそうです。多分1〜2万円くらいするかと思います。なので、青緑励起の場合、作成にかかる値段が多少高くなるのかと思われます。

 

コアラのマーチ・進化途中のスナップショット

はじめに

すいません。遅れました。

ノロわれて二日間寝てました。

 

今回紹介する論文は

The piRNA Response to Retroviral Invasion of the Koala Genome

Cell. 2019 Oct 17;179(3):632-643.e12. doi: 10.1016/j.cell.2019.09.002

 になります。Graphical Abstractのコアラがかわいいですね。

 

なぜこの論文

たまにtwitterで面白そうな論文をつぶやいているのですが、まっっったく反応がないときにはなんかションボリします(よね?)。

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そんなつぶやいたけれども全く反応がなかった論文の面白さをなんとか説明していこうという考えで選んでいます。

 

論文の内容的には非モデル生物でpiRNA、innate immunityの新概念を提唱してるところが新しいところとなります。

 

この論文に関する日本語の記事も出ていますが(12)、長さ等の制約があるのか翻訳の問題なのか割と難解な記事となっていますので、論文の面白さを十分に伝えられていない気がしています。

 

バックグラウンド

KoRV-A(コアラレトロウイルスA)

単にKoRVと書かれる場合もあります。 その名の通りコアラのレトロウイルスです。レトロウイルスはRNAをゲノムとして持ち、感染後に自身の持つ逆転写酵素でゲノムをDNAに逆転写して宿主のゲノムDNAに自身を挿入します。挿入したゲノムDNAよりRNA合成が行われて子孫ウイルス形成に向かいます。大きな特徴は宿主ゲノムにレトロウイルスのゲノムが挿入される所で、これはレトロトランスポゾンの元となり進化の原動力の一つであると考えられています。

KoRV-Aですが、近年コアラへの感染拡大が問題となっているレトロウイルスで、HIVとは異なり単独で重篤な免疫疾患は引き起こしませんが 、不妊の原因となるクラミジア感染を起こしやすくなるなどの影響があります。日本にいる動物園のコアラにも感染しています

そして、なぜコアラで研究が行われている理由になるのですが、KoRV-Aは最近コアラの生殖細胞系への感染、挿入が行われたらしく、遺伝的に受け継がれるウイルスかつウイルス粒子による水平感染も起こる状態となっています。つまりコアラは現在KoRV-Aの侵入を受けてすぐの状態であり、これからゲノムに入ったレトロウイルスをinactive化する必要があります(できないと絶滅の危機)。このゲノムに入ったレトロウイルスをinactive化する過程を自然の状態で実際に観察できるのは現在KoRV-Aのみと考えられています

 

piRNA

ライフサイエンス領域レビューにpiRNAのレビューがあるので、そちらを参照いただければ…と言いたいところですが、必要なところだけを少しだけまとめます。

トランスポゾンはゲノムの多様性をもたらす原動力となり得ますが、放っておくとどんどん転移してしまい、特に生殖細胞では致命的な影響となってしまうことからそれを強力に抑えるメカニズムが必要となります。そのトランスポゾンを抑制する経路がpiRNA経路で、24から31塩基の少分子RNAであるpiRNAとPIWIタンパク質を中心に転写、転写後レベルで抑制をかけています。

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ライフサイエンス領域レビュー piRNAの生成機構および作用機序 Figure 1より

piRNAは主にpiRNAクラスターと呼ばれる領域からの転写産物が細胞質でプロセッシングを受けることで形成されます(プライマリー経路)。また、プライマリー経路でできたpiRNA、piRNAクラスターから転写される逆鎖のRNA、プロセッシングに関わるタンパク質群によりpiRNAの増幅が行われて(ピンポン経路)トランスポゾンの抑制に向かいます。この論文で重要になってくる点はpiRNAはpiRNAクラスターというクラスター形成、プライマリー経路とピンポン経路の2つの経路で完全に機能しているという点となります。

関係ありませんが、外来遺伝子をpiRNAクラスター化してpiRNAを作成し切断で抑制をかけるってCRISPRと似てますね。

  

この論文ではざっくり何をしたのか

KoRV-Aを中心としたコアラに内在するレトロウイルスに注目し、コアラのゲノムシークエンス、RNA-seq、piRNA seq を行いました。解析の結果、KoRV-Aに対するpiRNAのセンスバイアスおよび非スプライシングRNAからの生成を発見しました。このゲノムに挿入された”若い”レトロウイルスに対するpiRNA形成の傾向がモデルマウスでもみられることから、筆者らはスプライシングを受けないRNAからのセンス鎖piRNA形成は生物種全体で保存されており、piRNAクラスター形成以前のpiRNAによるトランスポゾン抑制メカニズムであるという仮設を提唱しています。

 

本文のFig説明

KoRV-Aの発現と転移(Fig 1)

筆者らはまずゲノム配列のレトロトランスポゾンエレメントの数とその変異割合からKoRV-Aがアクティブであることの確認と、他に3つのアクティブなレトロトランスポゾンの発見を行いました。過去に報告のある2個体の組織RNA-seqと今回の論文で読んだ2個体の組織RNA-seqデータからKoRV-Aと他3つのエレメントのRNA合成が精巣を含め様々な組織で行われていることを確認しています。またKoRV-Aについては4個体についてゲノム中への挿入部位を調べていて、4個体で挿入部位に重複がほとんど無いことを明らかとしています。今回見つけた他の3つのアクティブなレトロトランスポゾンは4個体で一部重なるのでKoRV-Aよりも前にゲノムに挿入されたとしています(supplemental figure)。

 

KoRV-A piRNAのセンス鎖バイアス(Fig 3)

(Fig 2は略)

piRNA seqのデータ(piRNAは3'末端の2'Oがメチル化されているため酸化処理に対して耐性があり、酸化処理してsmall RNAを取ってくるとpiRNAの濃縮ができるらしい。後は長さのチェックでmiRNAとは選別可能)からpiRNAのセンス鎖と逆鎖について解析していて、KoRV-Aに対するpiRNAはセンス鎖に偏りがあることを示しています。また、今回発見した他の3つのエレメントに対するpiRNAについてはセンス鎖、逆鎖に偏りがほぼ無いことを示しています。KoRV-AについてはリファレンスゲノムではpiRNAクラスター部位への挿入が見られますが、今回解析した2個体についてはpiRNAクラスター部位への挿入は見られなかったということです。この結果から、KoRV-AはウイルスRNAとして合成されたRNAから直接プロセッシングを受けてセンス鎖のpiRNAが作られていると考えられます(そしてピンポン経路は動いていない)。

 

KoRV-A piRNAの非スプライシングRNAバイアス(Fig 4)

KoRV-Aのウイルスタンパク質envをコードするmRNAはウイルスRNAのスプライシングにより形成されます。RNA-seqの結果から、env mRNAはウイルスゲノムRNAの約5倍量存在しますが、piRNAはenvをコードしている領域に多いわけではなく一様に存在していました。 そして、コアラだけでなく、これまで報告されているマウス、ラット、牛、オポッサム、ニワトリ、ショウジョウバエのRNA-seqとpiRNA seqのデータそれぞれについて、exon-exon junctionとsplicing siteにマップされるリードの比を求めて、プロットを行った結果、すべての種で非スプライシングRNAからpiRNAが作られる傾向がみられました。

 

マウスAKR系におけるAKV murine leukemia virus piRNA生成(Fig 5)

コアラでみられたpiRNA生成バイアスが種を超えて保存されているのかを調べるモデル系としてマウスAKR系を用いて実験を行っています。AKRは内在性レトロウイルスが関与するT-リンパ腫の頻発系です。実際AKRの精巣では他の系統と異なAKV murine leukemia virusのRNAが検出されます。そして、RNA-seqとpiRNA seqを行いAKRゲノムのAKV murine leukemia virus挿入部位についてexon-exon junctionとsplicing siteにマップされるリードの比を求めたところ、非スプライシングRNAからpiRNAが生成されることが示されました。

 

これら結果から、筆者たちはトランスポゾンがpiRNAクラスターに入る前段階として非スプライシングRNA産物を感知→piRNA形成→トランスポゾン抑制の初期のトランスポゾン抑制メカニズムが存在するのではないかと仮定しています(Fig 6)。

 

感想

前半部分で見つけた他の3つのトランスポゾンがなぜアクティブになっているのかは謎のままです。新しいトランスポゾンの挿入により古いトランスポゾンがアクティブになることはメカニズム不明ながら観察されていることらしく、KoRV-Aの挿入によりアクティブになったのではと考察されています。非スプライシングRNAの検知って機構はどうなの?という至極当然な疑問も出てきますが、もうすでに抑え込まれたレトロトランスポゾンをみているだけではわからない初期反応が見つかったのはレトロウイルスによる負の影響を排除して進化につなげるメカニズムの全体像を理解する上で大きいのではないかと思います。

コアラの保全にも役立ててほしいですね(チープなまとめ)

 

最後に

遅れてすみません。健康には気をつけます。元気があるから研究ができます。